研修の要望に対する対応

研修を実施していると、終了後の振り返りによっていろいろな要望を受けることになる。

曰く「(技術研修においては)もっと技術力を付けさせて欲しい。」、曰く「研修は、6回ではなく4回で十分だったのではないか。」、曰く「もっと規律正しく見えるようにして欲しい。」。

中には「今年の研修は素晴らしかった。だから、来年はもっと良い研修をお願いします。」なんてものもある。

研修の後にこのような要望やクレームが出てくるのは仕方がないことである。
たとえ素晴らしいと言っていただいたような研修であっても、それに対して、あれを足したい、これも入れたい、というのは必ず出てくるし、何か問題が見られるようであればそれを改善してくれ、と言いたくなるのは当たり前のことなのだから。

なので、そのような要望やクレームに、講師はきちんと対応することが必要になる。

「来年はもっと良い研修を・・・」という要望に対しては、まずは「きちんと繰り返すことが大切です。」ということを伝えて納得してもらった。
実際に2年目以降はどうしても油断をしがちになる。
それを乗り越えて最初と同じだけの品質の研修ができることが、まずは必要なのだ。

「規律正しく見えるように・・・」については「自由に考えて行動することを促すために、わざと緩めています。」と伝える。ぐだぐだに見えるかもしれないが、そこで生み出される成果に気付いてもらえれば、とてもクリエイティブな場であることを理解してもらえる。
押しつけの形だけの規律などは、自由な考えと成長を妨げるだけである。
場が成熟すれば、規律の必要性を納得してもらうことで、一気に規律正しい場とすることもできる。

「6回ではなく4回で十分では・・・」については、研修全体の組み立てと意図についてきちんと説明をし、納得してもらう。実際には「失敗からの立て直し」と「立て直した後の自律化」に2回を使ったのだが、それを説明して納得してもらう。
「技術力を付けさせて欲しい」というのは技術研修ではよく出てくる要望である。
場合によってはクレームという感じで伝えられることも多い。
実際にはこのような要望への対処は難しい。
技術力を上げて欲しい、という要望に対しての答は、私の場合は次のようなものである。

「技術力はスキルであるから訓練の繰り返しがもっとも効果的である。」

そのために、説明を簡潔にすることにより、説明の時間を短くし、より多くの時間を演習にあてることになる。
さらに、演習中の集中力を上げるために時間などの環境的プレッシャーをかける。
そして、演習中に不安などが学習を妨げていると判断したら、それを取り除くように努める。

自ら考える習慣が付いてから後の演習では、少し聞いてくれればヒントを与えられるのに、というところでも一生懸命に自分で答を見つけようとして時間がかかりすぎる場合がある。
そのようなときに、考える時間の目安を与えることも有効である。

実際に技術力を限られた時間の中で上げさせようと思えば、これらの方法しかないだろう。
残念ながら、どんなに懇切丁寧に適切な説明をしたとしてもスキルとしては身につかないのだから。
「技術力を付けさせて欲しい」という要望には他にも落とし穴がある。
例えば、「技術力」として身につけさせたい内容が、研修の実施側とクライアント側で同じなのか、というのも考えなければならない。
研修会社に頼んむ研修では、その研修会社のカリキュラムで実施することが多いが、それが現場で必要とされる内容と違えば「技術力が足りない」という評価を受けることにつながる。

この場合には、どんなに一生懸命にカリキュラムに従って技術力を付けさせたとしても評価されないだろう。
要望に直接的に対応するためには、吊しの研修ではなくオーダーメイドの研修にするしか手はない。
もしくは単なる技術力以外の価値を研修に含めることで、そこに価値を見いだしてもらうことぐらいだろうか。
他にもこんなこともある。
ある会社で「もっと技術力を身につけさせて欲しい」という要望が上がってきたのだが、別の機会にその会社で話をうかがったときに次のような話を聞くことができた。

要望をあげた部署には、これまで学生時代からプログラムを学んで来た人が数年続けて配属されていた。
そのため、新人研修などなくても、それなりにできる人が配属されてきた。
数年経つうちに、それが新人のレベルとして定着してしまった。
その部署に、久しぶりに学生時代にプログラミング未経験の新人が配属された。
その部署で定着してしまっていた「新人のレベル」に比べて配属された新人は技術レベルが低い。
だから「もっと技術力を付けさせて欲しい」という要望が出た。

2ヶ月ほどの新入社員研修の中で、未経験者から4年間以上趣味でプログラムを書いてきた人に比肩できるレベルまで技術力を育てることはそう簡単ではあるまい。

要望やクレームというのは、一見して当たり前のことを言っているようなものほど、冷静な分析と考察が必要なのだ、というのは私の経験からの実感である。

もっともよくない対応は、言われたことに対応しようとして場当たり的な解決策を持ち出すことであると思う。
結果的には傷口を広げるだけになるだろう。

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