各所で新人研修の準備が行われている時期である。
私も順次準備をしているのだが、私の今年の担当はJava言語によるIT企業の新人研修となる予定である。
これまでの、私の新人研修の経験は、20年を越えるIT技術者(ハード、ソフト共に)の経歴もあって、IT企業がほとんどであり、今年もやはりIT企業である。
IT技術に技術者として採用された新入社員の研修は、技術的な内容が多いのは当たり前である。
現場に出て技術的な内容で働けるように、例えばプログラミングスキルを身につけさせる、ということを行う。
さまざまな知識を詰め込み、覚えさせ、プログラムを書かせたりする。
場合によっては、最後にプロジェクト演習、というような、チームで物を作る「体験」をすることも多い。
おそらく多くの人が、このような研修においては、知識を身につけるのに座学が多く、プログラムを書くのは一人作業で、と考えていることだろう。
私の研修の場合は、ちょっと違う。
技術スキルを身につけさせるのは、当たり前のことである。
IT企業での研修なのだから、そこは外してはいけない。
だが、私の研修では、それに加えて相互コミュニケーション、プレゼンテーション、チーム作業スキルを身につけることを目指し、さらに自発的な行動を発生させ、自ら考えて動けるようにしていきたいと考えている。
なので、研修の一番最初に行うのが「グルーピング」である。
座学で説明が始まる前にグループが構成される。
次に何が来るかといえば「コンピューターってどこにある?」という質問である。
これをグループで話し合い、発表する。
その次は「コンピューターって何?」である。
こんなグループワークをしながら、自らが知らないことを知り、さまざまなことを座学で学ぶよりも深く学んでいくのである。
グループワークが常に存在することで、さまざまなコミュニケーションスキルも向上させていくことができる。
そのようなグループワークの一つに「CPUごっこ」というのがある。
まぁ、ふざけた名前であるが、この名前も、取り組む際の障壁を下げるのに大いに役立っているようなので、素晴らしいネーミングだと、自分では思っている。
「CPUごっこ」は私のオリジナルの課題なのであるが、CPUというコンピュータの本質的な部品であるCPUを「体験」してしまおう、というものである。
CPUというのは、簡単には次のような図で説明される。
CPUの構成
一般的には図を見せながら、制御部の働き、レジスタの働き、ALUの働き、などと説明が続くことになる。
「CPUごっこ」では、いちいち細かい説明はしない。
しない代わりに、機能を簡単に紹介した上で、「制御部の人」「レジスタの人」「ALUの人」などのように「人」に役割を与えてしまい、人間がCPUの動作をまねしてみる。
データは付箋紙に書き、メモリはマス目を書いたA4の紙である。
時間をかけて話し合って、考えてみることで、ただ説明を聞くよりもずっと効率よく理解できるようになる。
結果や実施の工夫をすることで、副次的な効果を得ることもできるし、先のカリキュラムに対する効率的な予習にもなる。
学ぶことが楽しい、見つけることが楽しい、連帯感、達成感などのさまざまな感情を引き起こすにも役立つ。
これらのことを「説明」だけで実現することは、私には不可能である。
詩人レベルの言葉の使い方ができたとしても、難しいだろう。
だが、グループワークにしてしまうだけで、これらの効果が「自然」に生まれる。
これを使わない手はない。
CPUの構造は、コンピュータの専門教育を受けてきた学生なら、必ず聞いているであろう内容である。
だが「CPUごっこ」の実施後には「CPUを初めて理解できました」という声が出てくることが多い。
2時間から3時間かかるかもしれない。
でも、それ以上の意味は必ずある。
「CPUごっこ」すでに10年使っている課題である。
だが、まだまだ使えるどころか、使い慣れるに従って、より多くの気づきを産む運用ができるようになってきている課題である。
今年もこのような課題を駆使しつつ、楽しく、深く、効率よく学べる研修を実現していきたい。
私が実施している、IT技術系の講師講習では、この「CPUごっこ」を体験してもらい、実施方法をお伝えすることもある。
グループワークで技術を理解する、ということを納得してもらえるからである。
興味のある方はぜひお問い合わせいただきたい。
講師講習では、紹介だけではなく、実施方法とそのインストラクションの注意点、起こりうる問題などについてお話をさせていただけるし、その他の多くのアクティビティも紹介させていただけるだろう。
学ばせたいことを聞かせていただければ、それを実現するグループワークを作り上げることもできるかもしれない。
説明して満足するのは講師の自己満足である。
理解してもらって満足するのが、本当の講師である。
よりよい理解のために、さらに工夫を重ねていきたい。