私の行う研修では「課題」が大きなウェイトを占めている。
研修期間中、講師が話す時間を全体の中の1/4~1/5に抑える、というのが自分に課している目標であり、残りの時間をすべて「課題の実施」にあてている。
可能ならば講師が話す時間はもっと少なくてもよいと思うし、説明を抜きにして課題+アドバイスだけで成立するのならば、より多くのことが学んでいただけるだろうと思う。
こう言うと
「では、講師の仕事はなに?」
と言われるだろうが、それには次のように答えることにしている。
「受講される方を観察し、学ぶべき事を考えて、簡単すぎず、難しすぎない適切な難度の課題を考えて、時間を設定して実施し、学びの結果を見て次の課題につなげること」
もちろん、必要だと判断したら、学習を邪魔しない適当なアドバイスを提供することもするが、基本は課題を実施する中で、考え、気づいていただかなければならない。
それができないような課題であれば、提出側の失敗である。
これは、実はただ話をするだけよりもずっと難易度の高い作業である。
ノウハウ、観察、アイデア、知識などさまざまなスキルがなければ、なかなか「適切な課題」を作ることは難しい。
この「課題設定のスキル」こそが私の講師スキルの中心的な部分である。
課題を考えるのは、研修中であることもあるが、主に前日の研修が終了してからであり、次の日の研修が始まるときには講師の仕事が終わっている、ぐらいのつもりで課題の設定に取り組んでいる。
一つ例を挙げてみよう。
コミュニケーション研修では「伝える」ということも学ぶべき要素の一つになるが、その際に「伝わりやすい話し方」というのを学ぶことになる。
通常の研修であれば「ゆっくり話しましょう」「間を開けて話しましょう」「必要ならば繰り返しましょう」などと「言われる」のだろうが、私の研修では次のような課題を実行してもらうことになる。
「短い文章を考えて、それを相手に暗唱させてください」
相手にきっちり伝えるために試行錯誤しながら何度も繰り返していると、自然と「ゆっくり話しましょう」「間を開けて話しましょう」「必要ならば繰り返しましょう」をするようになる。
他にもいくつも要素があるのだが、自分で体験することで、その効果を自分で体験しながら見つけていくことになる。
課題の後で「振り返り」を行うことで無意識の行動も意識下に置くことができるようになり、言われるだけよりもはるかに身につく学びを行うことができる。
課題を実施して振り返りを行い、講師の言葉で確認をすることで、きっちりした学びができてしまうのである。
講師が伝えるだけならばもっと短い時間で済むであろうが、課題を通して学ぶことはそれとは次元の違う学びを実現することができるのである。
実際に研修を行っているうちに「話し方が遅くなっているのに気がついた」などという感想も出てくるぐらい、即座に変化が現れてくる。
これが「教えられる」のではなく「自ら学ぶ」ことの効果である。
この一つの課題だけでなく、他にも多くの課題をこなしていくなかで、トータルの力が身につくことになる。
このような課題のストックを豊富に持ち、受講生の方に合わせながら実施するスキルが、私の講師としてのもっとも大事な部分だと考えている。