社会人基礎力を身につける

このブログにたどり着いてくださる方の検索キーワードを見ていると「社会人基礎力 つける」というのが上位に来ていることがある。

社会人基礎力とは経済産業省が提唱しているもので、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成された「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」というものである。

経済産業省 社会人基礎力

実際の中身は、主体性、実行力、課題発見力、傾聴力、状況把握力などといったもので、そんなことをわざわざ言わなくても分かってるよ、と言いたくなるようなごく当たり前の内容である。
しかし、当たり前とはいえ、新人研修ではこれらの内容を身につけることを期待されることがここ数年増えてきている。
これは主体的に動く、という経験を学生時代にしてこなかった新入社員が圧倒的に多く、言われたことしかしない、できない、という感じを、採用する側か強く持っているからにちがいない。
コミュニケーションの中の、特に「聴く」ということができない人が多いことも理由の一つだろう。
では、どうすればそれらの能力を身につけさせられるのか、ということになるのだが、先の経済産業省のホームページからのリンクに次のようなページがある。

河合塾 社会人基礎力育成の手引き

身につけさせるための具体的な方法に関しては少し疑問を呈したいところもあるが、中には多くのヒントがある。
これらのドキュメントはそれなりの量があるが、一読することをお勧めする。
では、私がどのように普段の研修の中でこれらの社会人基礎力を育てようとしているかを簡単に書いてみたい。

主体性

先の「社会人基礎力育成の手引き」において、もっとも重要とされている能力である。
主体性、すなわち自分から動く力があれば他の能力も自然と伸びていくものだからである。
この能力を育てるためには、様々な形での承認を元にした自信を与えなければならない。
「やってもだめだ」と思っているうちは自分で動くようにはならない。

具体的には課題を実施して「自分でできた」という経験を、小さくてもよいから積み上げることである。
途中に失敗があってもよい。
失敗を振り返り改善点を自分で見つけて克服することができれば、それは大きな自信になる。

自分で考えて動いてもよいんだ、答を自分で見つけてよいんだ、と考えられるようになれば主体的な行動が現れてくる。

よくある失敗は、試行錯誤の末に出した結果に対して「それではだめだよ」と言ってしまうことだろう。
せっかく生まれたかけた自信を、形になる前から摘み取るようなことをしては自主性など生まれるはずもない。

課題を与え、結果を検証させて振り返りをし、出てきた結果を尊重して、また課題に取り組む。

このサイクルを繰り返す中で主体性は自然と育って行く。

振り返りにおける、講師によるアドバイスや不適切な評価はマイナス要因となることが多い、ということを言い添えておく。

働きかけ力

グループワークが効果的に機能する。
ただし、グループ内での「聴く姿勢」があることが前提である。
グループ内で人の意見を聞く、という姿勢があれば、自分の意見を取り入れてもらい、それにより結果が変わるという経験をすることになる。
その経験の積み重ねが働きかけ力を伸ばしていくことになる。

実行力

「やってみれば何とかなる」という感覚を持たせることができれば、動いて結果を受け入れよう、ことになっていく。
そのためには、失敗はしてはいけないものではない、という意識を持たせることがまずは大事であり、あとは主体性の時と同様に、成功体験を積み重ねていくことである。
「やってみよう」という気持ちがあれば、実行力は自然にあらわれていく。

課題発見力

グループワークにおける振り返りがとても有効に機能する。
また、しっかり考える機会を作る、という意味では3分間スピーチなども有効である。
考えるチャンスを与えて時間を確保し、多くの視点に触れることで、課題発見力が身についていく。
視点の広げ方などを知識として伝えることも効果的であるが、それはよくあるロジカルシンキングの研修のような、分析のための図表の使い方を教えることではない。

計画力

作業を行う際の「段取り」を意識させての研修が有効である。
すべきことを考え、見積もりをし、計画を立てて実施し、その後に振り返りを行う。
このサイクルを繰り返すことで計画力が定着していく。

創造力

課題への取り組みの中で、まずは枠を取り払ってあげることが大切だと考える。
答を求めるのではなく、問題を解決することが目的である、という意識を持たせた上で、考えられる限り自由な発想で取り組む訓練をする。
ある程度できるようになったら、今度は限られた枠の中で工夫しなければならない状況を設定する。
自由に考える訓練と、枠の中で工夫する訓練を通して問題解決のための創造力を育んでいく。

ただし、私の実績から言うと、新人研修では十分な育成をできていないと考えている。
社会人になったばかりの緊張が自由な発想を妨げている面があると思われるので、より自由に考えられる環境を作ることは、これからの私の課題の一つである。

発信力

3分間スピーチ、グループワーク、などへの積極的な参加を通してこれらの力が伸びていく。
発信力というのは、ただたくさん話せばよい、といういうものではない。
効果的に周りに伝えられなければならないが、そのためには相手を意識して伝えることが欠かせない。
きちんと「発信」できるようになるためには、伝える相手を意識した伝え方を考えることが有効である。

傾聴力

聴くことの効果と必要性を体験させて意識を変えることが効果的である。
メモ無しのグループワーク、価値観の交流などを使って、聴くことの大切さを意識させることができる。
また、普段から集中して聴かなければならない環境を常に用意することによって、必要な時に集中して聴く訓練ができる。

柔軟性

環境を変えながらのグループワークの繰り返しが有効に機能する。
人が変わればグループワークの形が変わる。
その変わった形の中で自分の位置やすべきことを考え続けることで、状況に合わせて行動が出来るようになっていく。

情報把握力

負荷の高い課題のグループワークを繰り返すことで、瞬間的な状況判断を繰り返す状況を作ることができる。
適切な状況判断を行うためには、周りの状況を把握する必要がある。
そのような状況と振り返りを繰り返すことで、伸ばすことができる。

規律性

グループワークがうまくいかない場合の原因の一つが規律性の欠如となる。
そのような場合には、規律性の乱れからのグループワークの失敗を誘発し、振り返りをさせて気づかせることが規律性の向上には有効であると考えている。
一般的な「マナー」に含まれる内容も多い規律性であるが、チームで作業をするスキル、という意味では、他者を不快にさせない、他者に快くなってもらう、という視点が欠かせない。
それらはグループワークの振り返りにおいて、自身の行動がどのような結果を招くのかを気づかせることにより改善されていく可能性が高い。

ストレスコントロール力

高い負荷の作業をこなす中での工夫がストレスコントロール力を身につけることにつながっていく。
あるところの研修では、酒を飲んだり、カラオケに行って発散したり、というのがストレスコントロール力だ、というような定義になっていたが、実際のストレスコントロール力とはそういうものではない。
ストレスの源に自らアクセスしてコントロール、解決したり、そもそもストレスフルな環境の中で活動できるタフさを身につけることがストレスコントロール力である。
育てようとする側がこれらの能力についてきちんと理解した上で、どのように育てればよいのかを考え、何が原因でできないのか、どうすればできるようになるのかというのを観察と創造により作り上げていかなければならない。

私の方法論ではグループワークを多用することになる。
これは、チームで働くためのスキルとしての社会人基礎力を実践的に学ぶのであるから、もっとも効率のよい方法だと考えている。

社会人基礎力の各能力要素は、残念ながらどんなに資料をたくさん読んだり、シミュレーションを繰り返しても使えるレベルで身につくものではない。

実践の中で、各自の振り返りからの気づきがこれらの能力を芽生えさせる。
芽生えたら定着させるためには訓練が欠かせない。

そして、訓練には時間が必要である。
説明だけで終わってしまう研修ではこれらの能力は身につかない。
気づきがあっても、訓練がない研修では定着しない。

これは、新人研修で最初からグループワークを導入している理由の一つである。

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