Archive for 2015年7月17日

Takanori

座学の使い方

私は技術研修であっても座学ゼロを目指して研修を実施している、ということを以前に書いた。

座学、すなわちテキストを音読し解説することだが、これは正直に言って意味がない。
考えてみて欲しいのだが、1日8時間話した内容のうち、どれだけを理解して覚えていられるだろうか。

たいていは30分ぐらいが限度で、場合によってはゼロなんてこともあるにちがいない。

つまり、座学は意味がないかとても効率が悪い、のだ。

本に書いてあることは自分で読めばいいし、その方が自分のペースで読めるのだから効果的なはずだ。
今の時代ネットを使えば調べるための材料も山ほどある。
だから、私は座学ゼロの研修を目指し、ほぼ実現できるようになってきた。
だが、最近、その座学を研修の効率を上げるための手段として使えないかと考えるようになってきた。
もちろん原則は変わらない。

自ら見つけ学ぶ事の方が深い学びにつながることは間違いない。
とはいえ、私が行っているのは時間的に制限のある研修である。
自主性を邪魔しない範囲で効率を上げられる方法があるのならば、是非とも採用したい。

そのように考えて座学に目を向けてみることにした。

音読し、説明するような普通の座学はやらない。
前に話したように意味がないからだ。

では、どうするかを考えてルールを決めた。
・理解のために必要な概念、用語をヒントとして、考え始める前に提供すること。
・そのために使う時間は30分までに抑えること。
・この手法を使う場面を極力限定すること。
このような考え方で実施をしてみた。
タイマーで30分をセットし、座学を始めるのだ。
その座学もテキストを読むことはほぼ行わずに、概念や用語の説明を簡潔に行い、時間が来たらやめる、というか、それまでの時間で説明を終える。

30分かけただけの効果があったかどうかの検証は難しいし、講師の独りよがりとなっている可能性も大きい。
だが、何度か実施した中で、座学に対する集中が切れなかったことを思えば、ある程度は効果があると思ってもらえていたのではないかと思う。
時間が充分にあれば十分な試行錯誤の時間を与え自ら見つけるのを待つことが一番良い。
ただ、その場合でも、気づくための工夫や、隠されたヒントを与えることは学びの効率を良くする。

邪魔をしない、手助けをするための座学のありかた。

これからの課題の一つである。

Takanori

社会人基礎力を身につける

このブログにたどり着いてくださる方の検索キーワードを見ていると「社会人基礎力 つける」というのが上位に来ていることがある。

社会人基礎力とは経済産業省が提唱しているもので、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成された「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」というものである。

経済産業省 社会人基礎力

実際の中身は、主体性、実行力、課題発見力、傾聴力、状況把握力などといったもので、そんなことをわざわざ言わなくても分かってるよ、と言いたくなるようなごく当たり前の内容である。
しかし、当たり前とはいえ、新人研修ではこれらの内容を身につけることを期待されることがここ数年増えてきている。
これは主体的に動く、という経験を学生時代にしてこなかった新入社員が圧倒的に多く、言われたことしかしない、できない、という感じを、採用する側か強く持っているからにちがいない。
コミュニケーションの中の、特に「聴く」ということができない人が多いことも理由の一つだろう。
では、どうすればそれらの能力を身につけさせられるのか、ということになるのだが、先の経済産業省のホームページからのリンクに次のようなページがある。

河合塾 社会人基礎力育成の手引き

身につけさせるための具体的な方法に関しては少し疑問を呈したいところもあるが、中には多くのヒントがある。
これらのドキュメントはそれなりの量があるが、一読することをお勧めする。
では、私がどのように普段の研修の中でこれらの社会人基礎力を育てようとしているかを簡単に書いてみたい。

主体性

先の「社会人基礎力育成の手引き」において、もっとも重要とされている能力である。
主体性、すなわち自分から動く力があれば他の能力も自然と伸びていくものだからである。
この能力を育てるためには、様々な形での承認を元にした自信を与えなければならない。
「やってもだめだ」と思っているうちは自分で動くようにはならない。

具体的には課題を実施して「自分でできた」という経験を、小さくてもよいから積み上げることである。
途中に失敗があってもよい。
失敗を振り返り改善点を自分で見つけて克服することができれば、それは大きな自信になる。

自分で考えて動いてもよいんだ、答を自分で見つけてよいんだ、と考えられるようになれば主体的な行動が現れてくる。

よくある失敗は、試行錯誤の末に出した結果に対して「それではだめだよ」と言ってしまうことだろう。
せっかく生まれたかけた自信を、形になる前から摘み取るようなことをしては自主性など生まれるはずもない。

課題を与え、結果を検証させて振り返りをし、出てきた結果を尊重して、また課題に取り組む。

このサイクルを繰り返す中で主体性は自然と育って行く。

振り返りにおける、講師によるアドバイスや不適切な評価はマイナス要因となることが多い、ということを言い添えておく。

働きかけ力

グループワークが効果的に機能する。
ただし、グループ内での「聴く姿勢」があることが前提である。
グループ内で人の意見を聞く、という姿勢があれば、自分の意見を取り入れてもらい、それにより結果が変わるという経験をすることになる。
その経験の積み重ねが働きかけ力を伸ばしていくことになる。

実行力

「やってみれば何とかなる」という感覚を持たせることができれば、動いて結果を受け入れよう、ことになっていく。
そのためには、失敗はしてはいけないものではない、という意識を持たせることがまずは大事であり、あとは主体性の時と同様に、成功体験を積み重ねていくことである。
「やってみよう」という気持ちがあれば、実行力は自然にあらわれていく。

課題発見力

グループワークにおける振り返りがとても有効に機能する。
また、しっかり考える機会を作る、という意味では3分間スピーチなども有効である。
考えるチャンスを与えて時間を確保し、多くの視点に触れることで、課題発見力が身についていく。
視点の広げ方などを知識として伝えることも効果的であるが、それはよくあるロジカルシンキングの研修のような、分析のための図表の使い方を教えることではない。

計画力

作業を行う際の「段取り」を意識させての研修が有効である。
すべきことを考え、見積もりをし、計画を立てて実施し、その後に振り返りを行う。
このサイクルを繰り返すことで計画力が定着していく。

創造力

課題への取り組みの中で、まずは枠を取り払ってあげることが大切だと考える。
答を求めるのではなく、問題を解決することが目的である、という意識を持たせた上で、考えられる限り自由な発想で取り組む訓練をする。
ある程度できるようになったら、今度は限られた枠の中で工夫しなければならない状況を設定する。
自由に考える訓練と、枠の中で工夫する訓練を通して問題解決のための創造力を育んでいく。

ただし、私の実績から言うと、新人研修では十分な育成をできていないと考えている。
社会人になったばかりの緊張が自由な発想を妨げている面があると思われるので、より自由に考えられる環境を作ることは、これからの私の課題の一つである。

発信力

3分間スピーチ、グループワーク、などへの積極的な参加を通してこれらの力が伸びていく。
発信力というのは、ただたくさん話せばよい、といういうものではない。
効果的に周りに伝えられなければならないが、そのためには相手を意識して伝えることが欠かせない。
きちんと「発信」できるようになるためには、伝える相手を意識した伝え方を考えることが有効である。

傾聴力

聴くことの効果と必要性を体験させて意識を変えることが効果的である。
メモ無しのグループワーク、価値観の交流などを使って、聴くことの大切さを意識させることができる。
また、普段から集中して聴かなければならない環境を常に用意することによって、必要な時に集中して聴く訓練ができる。

柔軟性

環境を変えながらのグループワークの繰り返しが有効に機能する。
人が変わればグループワークの形が変わる。
その変わった形の中で自分の位置やすべきことを考え続けることで、状況に合わせて行動が出来るようになっていく。

情報把握力

負荷の高い課題のグループワークを繰り返すことで、瞬間的な状況判断を繰り返す状況を作ることができる。
適切な状況判断を行うためには、周りの状況を把握する必要がある。
そのような状況と振り返りを繰り返すことで、伸ばすことができる。

規律性

グループワークがうまくいかない場合の原因の一つが規律性の欠如となる。
そのような場合には、規律性の乱れからのグループワークの失敗を誘発し、振り返りをさせて気づかせることが規律性の向上には有効であると考えている。
一般的な「マナー」に含まれる内容も多い規律性であるが、チームで作業をするスキル、という意味では、他者を不快にさせない、他者に快くなってもらう、という視点が欠かせない。
それらはグループワークの振り返りにおいて、自身の行動がどのような結果を招くのかを気づかせることにより改善されていく可能性が高い。

ストレスコントロール力

高い負荷の作業をこなす中での工夫がストレスコントロール力を身につけることにつながっていく。
あるところの研修では、酒を飲んだり、カラオケに行って発散したり、というのがストレスコントロール力だ、というような定義になっていたが、実際のストレスコントロール力とはそういうものではない。
ストレスの源に自らアクセスしてコントロール、解決したり、そもそもストレスフルな環境の中で活動できるタフさを身につけることがストレスコントロール力である。
育てようとする側がこれらの能力についてきちんと理解した上で、どのように育てればよいのかを考え、何が原因でできないのか、どうすればできるようになるのかというのを観察と創造により作り上げていかなければならない。

私の方法論ではグループワークを多用することになる。
これは、チームで働くためのスキルとしての社会人基礎力を実践的に学ぶのであるから、もっとも効率のよい方法だと考えている。

社会人基礎力の各能力要素は、残念ながらどんなに資料をたくさん読んだり、シミュレーションを繰り返しても使えるレベルで身につくものではない。

実践の中で、各自の振り返りからの気づきがこれらの能力を芽生えさせる。
芽生えたら定着させるためには訓練が欠かせない。

そして、訓練には時間が必要である。
説明だけで終わってしまう研修ではこれらの能力は身につかない。
気づきがあっても、訓練がない研修では定着しない。

これは、新人研修で最初からグループワークを導入している理由の一つである。

Takanori

人材育成の教科書

週刊ダイヤモンドなどの経済やビジネスなどの書籍や雑誌、小説を出版している出版社ダイヤモンド社から「人材育成の教科書」という書籍が販売されている。
http://www.diamond.co.jp/book/9784478062470.html

18人の研修講師、コンサルタントという専門家の考え方や行っていることが紹介されている。

各専門家が直接文書を書いているわけではなく、取材を受けて記事の形でまとめられているので、ある程度は客観的な書き方がされている。

なぜ、こんなことを書いているかというと、この本の199ページから212ページまでに私が紹介されているからである。

「徹底したカスタマイズで心に火をつける研修を目指す」

というのが私の項につけていただいたタイトルになる。

このタイトルは、取材の時にいろいろお話をさせていただいた中から、取材をしてくださった方が考えてつけてくれたものなので、私が「こうしてほしい」といってついたものではない。
きっと取材していただいた方には、まったく同じ研修はない、というのが印象的だったのだろう。
今日は研修を提供されている研修会社さんにお邪魔してきたのだが、そこでも関連した話が少し出ていたので、この「カスタマイズ」ということについて少し話をしてみたい。
よくある研修というのは、あらかじめ研修のカリキュラムが決められており、場合によってはタイムスケジュールも綿密に作られており、その会社でその研修を受ければ毎回同じ内容の研修となる、というようなものである。

質問の多い少ないなどで多少の時間のずれはあるだろうが、基本的には毎回同じ内容、というのが基本で、毎回同じことができることを「研修の品質」としてうたっている研修会社も多い。

ある意味、毎回きちんと同じ内容ができることはよいことである。
講師のスキルが足りずに、言ってること、やってることが毎回違う、というレベルに比べれば、いつでも同じことができる、というのは意味があることである。
だが、それができることは講師として最低限のスキルである。
ある意味、やろうと思えばできて当たり前、のレベルなのだ。
研修の目的は、決められたカリキュラムを実施することではない。
受講者の方の成長こそが目的である。

用意したカリキュラムが受講者にマッチしないものであれば、マッチするようにしなければならない。
そのためには、受講者のことを知り、受講者の求めていることを理解し、必要なカリキュラムを組み立て直す必要がある。
場合によっては、当日その場でカリキュラムを変更して実施することも辞さない。
1日の研修ではそうするしか方法がないのだ。
だから特に短期の研修では、事前に用意するカリキュラムはいくつかのメニューの集合体として準備し、その場で観察をしながら実施内容を選んでいく。
事前に用意したもので足りなければ、その場で足したり、新たなものを考えたりもする。
受講者の成長が目的だから、そのために受講者にマッチした研修を実施する。
実施環境が違えば、受講者が変われば、当然マッチした内容というのも変化していく。

だから、カスタマイズが必要なのだ。
研修内容の徹底したカスタマイズは、研修をすることが目的なのではなく、受講者の成長が目的であることの一つの証なのだろうと思っている。

Takanori

実験

今年は研修に関して一つ大きな実験を行うことができた。

ちなみに、実験というのは行き当たりばったり試すことではない、というのは言うまでもない。
「こうすればこうなるはずだ」という仮説を立て、その仮説を実証するために段取りをし準備をして実行し、結果を観察するのが実験である。

今年できた実験というのは、私以外の講師の方に研修の現場に出てもらい、私が立てたカリキュラムに基づき、私の考えるやり方で研修を行ってもらう、というものだ。

私の役割は、以下の4点である。
・全体のカリキュラムの流れを作ること
・講師の方に研修の進め方をお伝えすること
・日々の研修の中で日報を見てアドバイスをさせていただくこと
・必要があれば進め方の相談に乗ること

研修の基本的な方針は、私のいつもの方針、つまり、考えさせ、グループワーク主体に進めるというやり方で、現場に出てくださる講師の方も、そのような研修は初めて、という状態だった。

現場に出ていない私には、その場で発生しているさまざまな事に対処することはできないので、現場に出ていただく講師の方に現場をお任せするしかない。
私は、発生するだろう変化を予測したり、起きたことをコミュニケーションシートから読み取ったり、講師の方からお話をうかがったりしながら、ちょっとだけアドバイスをし、後は見守っている、ということしかできない。
研修を始める前には、本当にできるのだろうか、という不安もあり、場合によっては、日々のカリキュラムを事細かに設定しなければならないかも、とか、日報のフィードバックの台本を書かなければならないかも、と考えていたのだが、本当に幸運なことに、よい講師の方との出会いにも恵まれ、私の想定していた中でも必要最小限のサポートで研修の現場を回していただくことができた。
そして、その大きな実験である研修が先日終了した。
段取りをし、実施したなら結果を観察しなければならない。
私は現場にいないために直接的な観察の手段は限られる。
使える情報は、日々の日報と見に行けた成果発表会、クライアントの反応と講師からのフィードバックである。

それらを総合して判断すると、今回の実験はまずまずの成功を収めたと言ってよいのではないかと思う。

もちろん、段取りと実施の問題や、突発的なトラブルもあり、完全に満足すべき結果が出た、とは言えない。
だが、それでも、仮説の最低限の証明はできたのではないかと思う。

現場で講師をしてくださった方は、これまでにも講師経験のある方だった。

その方が「受講生が自分で考える形の研修のすごさを実感しています。」「よくここまでできるようになってくれたと思います。座学メインでやってたらどうなってたのか怖いです。」という感想を話してくださった。
今回証明できたと考える仮説は次のようなものだ。
「適切な課題と、グループワークの機会と、適切なモチベーションと、必要な時間。これを与えれば人は勝手に成長してくれる。」
つまり、私がいつも実施している研修の内容なのだが、私が講師でなくてもきちんと結果が出るのだ、ということが証明できたのだ。

これまでは「長谷川さんだからできる。」という言われ方をすることがあったが、決してそんなことはない、とこれからは自信を持って話すことができるということだ。
適切なカリキュラムとグループワークの機会は形として準備できる。
必要な時間も同じである。

あとは、講師として「適切なモチベーションを保つスキル」があれば、目指す研修はできそうだ、ということを実証できた今回の研修は、私にとってもとても有意義なものであった。

講師の方は「モチベーション高く保つのを意識するのは大変でした。」と言われていたが、一生懸命取り組んでくれた。
私からのアドバイスも多少役に立ったのかもしれないが、それにより、研修が成果の出るものになったのだろう。
これ以降も同じような研修をする機会があるかもしれないが、その時にはもう少し自信を持って取り組むことができるだろうと思う。
今回の成果は、1にも2にも現場で大変な研修に取り組んでくれた講師の方と、初めての研修を自由に進めさせてくださったクライアント、そして仕事を紹介してくださった研修会社さんのおかげである。

関係する多くの方に、感謝したい。