Takanori

講師として最大の失敗

私が本格的に講師として活動を始めてから10年近くになる。

いつも順調に仕事をしてきたかというと、そんなことはない。
大小、さまざまな失敗をしてきている。

小さな失敗は上げればきりがないが、私の最大の失敗はとてもわかりやすい。
今回はその失敗の話である。

それは、私が初めて新人研修の講師としての仕事を行ったときのことである。
私はまだプログラマとして仕事をしていたのだが、さまざまな方から仕事の紹介をもらっていた。
その中の一つに「新人研修をしないか?」というのがあった。
もともと教える事は好きだったので、「やります」と返事をし、クライアントと打ち合わせをして、カリキュラムを作った。
期間は一ヶ月半である。

その頃の私は、ごく普通の説明をし、演習問題を少しやらせ、分からなかったら解答を配り、次の説明をする、というごく普通のよくある技術研修のイメージを持っており、企業担当者の「みんな初心者ですよ」という謙遜の言葉を真に受けて、それにあわせてカリキュラムを組み立てていた。

そして研修が始まり、自己紹介をしてもらいそれぞれの経験や知識を聞いていく中で、私の頭は真っ白になった。

全然「初心者」などではないのだ。

このままでは、用意したカリキュラムなど2週間で終わってしまう。
残り1ヶ月、どうすればよいのだろう。
私は、すさまじい勢いでテキストの説明をし、その日を終え、逃げるように帰った。

以下は、記録に残っている、その時の受講生の指摘と、私の反省である。
「講習生のレベルをきちんと把握できていなかった。
説明の時間が長く、手を動かす講習がほしいという講習生からの指摘有り。
慣れていないためか質問などがなく、2日間の予定の内容を1日で話し終わってしまった。」

しかし、やめるわけにはいかない。

これが、私の講師経験の中で最大の失敗である。
自分の知っている研修の形をそのまま実施しようとし、受講生のことをちゃんと考えていなかったのだ。
今から考えると恥ずかしい限りであるが、それがその時の私であった。

幸いにも、初日が金曜日だった。
次の講習まで二日間の休みがある。

私は考えた。
どうすればいいのだろうか。

その頃、私はラグビースクールで「コーチング」という考え方を知っていた。
「ワークショップ」という道具の存在も知っていた。
「教えないで教える」という言葉も知っていた。
だが、それを使えるようには、全くなっていなかった。
ただ「知っていた」だけだった。

しかし、それにすがるしかなかった。
他に、私の頭の中には「教える」ための手段がないのだから。

そこで、一生懸命に「コーチング」「ワークショップ」「教えないで教える」を頭の中で繰り返し唱えながら、次の日のカリキュラムを作り始めた。

課題を与えグループで考えさせて発表させる。
私がたどり着いたところはここだった。

2日目が終わったところの記録である。
「やはり説明の時間が長かった
グループ数が多いためにワークショップの発表でだれてしまう。
ワークショップで発表のテクニックを教えなかったために発表方法がよくなかった。
プレゼンテーション技術の講習をどこかで行うことを検討する。」

まだうまくできていないのは明白だが、今、行っていることの芽がここにあるのも感じられる。

それからは毎日、結果を見て反省し、午前3時、4時まで次の日のカリキュラムを考え、また実施して観察する、というサイクルの連続である。

しかし、ある程度進んでくると、手ごたえが出てきた。

中盤以降の記録である。
「だが、実際には作業内容はすばらしいものがあった。
所々でアドバイスをしているだけなのだが、設計が行き詰まった際に自発的に設計を見直して、やり直して、それによりよい設計ができたことを実感している班があったり、ほんとにしっかり設計を行うことを心がけていたり、内容的な漏れもだいぶ少なくなったり、見るべき点は多い。
時間的にも、仕様作成の段階の調整で、もともとぎりぎりの時間を設定しているので、これぐらいの遅延は十分許容範囲だと考えられる。それよりも時間を考えながら作業しているときの集中力はすばらしい。
彼らはいい意味でこちらの期待を裏切ってくれている。」

そして、最後には研修終了時に涙ぐんでくれる人が出てくるような研修となった。

この初回の研修は、私にとっての最大の失敗であるのだが、私の講師としての形の出発点でもある。

なぜ、頭が真っ白な状態から復活することができたのかといえば、たまたまコーチングやワークショップというものを「知っていた」からだ。
逃げ場がなかったから、というのも大きいだろうが、土壇場で、知識が私を救ってくれた。

私は講習でよく言う。
「いろんなことを学んでいると、知識がそれぞれの分野ごとにばらばらで存在するように感じます。
でも、ある程度知識の量が増えてくると、それらがつながるところが出てきます。
そうしたら、より多くのものが見えるようになります。」

これは私の経験からの言葉である。

あるとき、新人研修の感想として、次のような言葉をもらったことがある。

「長谷川先生の話は、経験談が多く体系化されていないため、正しい方法なのか不安であると感じました。」

確かに、そんな学術論文や本を見たことがあるわけではない。
だが、私のこれまでの経験の中から見つけたことは、少なくとも私の中では正しいことなのだ。
そして、それを伝えていきたい。

本を読めば分かることもあるだろうし、私の経験からの結論が間違っていることもあるだろう。
その場合には、受講生がそれを見つけて自分のものとしてくれればいいのだ。
私が常に正しいとは限らない。

だが、2年以上前に、茂木健一郎さんが「プロフェッショナル仕事の流儀~プロに学べ!脳活用法スペシャル『これが育ての極意だ』」という番組で紹介していた、人を育てるポイントを見て、「そんなの前からやってるよ」と言えたぐらいには正しいようである。

最初の新人研修が終わって1週間は、何もする気が起きなかった。
魂が抜けた感じがしたのを、今でも覚えている。

そして、現実に戻ったときに「もっと良くしたい」「きちんと教える事を学びたい」と強く思った。

これが私の講師としての最大の失敗であり、私の原点である。

プロフェッショナル 仕事の流儀 動画 「プロに学べ!脳活用法スペシャル これが“育て”の極意だ!」 09年03月31日放送分

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